京都東山三条 白澤堂ブログ〜東洋の医学と哲学

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五行の成り立ちとその意味

みなさま、こんにちは!!!

京都東山三条の

鍼灸接骨院 白澤堂HAKUTAKUDOU

院長の長濱です。

当ブログをご覧いただき、ありがとうございます。

 

今回は五行思想についてです。

五行は陰陽についで、比較的ポピュラーなのではないでしょうか。五行の考えは、日本の風習だけではなく、茶道や相撲など日本文化の中にも溶け込んでいるからです。

 

五行(ごぎょう)とは、世界を木・火・土・金・水(もく・か・ど・ごん・すい)の五つの性質に分けて説明する概念です。古典鍼灸では、陰陽と合わせて、五行の概念が非常に重要となります。

後々、ご紹介していきますね。

 

 

 

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五色幕

 

1.五行の成り立ち

五行説」は、誰かが突然打ち出した思想ではなく、古代中国の文化や風習の中から徐々に培われていったものです。それ故に、どのように成り立ったかは定かではありませんが、いくつかの推論がなされています。

 

春秋・戦国時代に遡る非常に古い文献である《尚書》の「洪範」に記されている政治学五行説がもとになっており、これが五行についての最も古い記載であるかと思われます。

 

五行:一曰水,二曰火,三曰木,四曰金,五曰土。水曰潤下,火曰炎上,木曰曲直,金曰從革,土爰稼穡。潤下作鹹,炎上作苦,曲直作酸,從革作辛,稼穡作甘。

(五行。一に曰く水、二に曰く火、三に曰く木、四に曰く金、五に曰く土。水はここに潤下し、火はここに炎上し、木はここに曲直し、金はここに従革し、土はここに稼穡する。潤下は鹹をなし、炎上は苦をなし、曲直は酸をなし、従革は辛をなし、稼穡は甘をなす)

 

洪範は大いなる規範、つまり、天下統一の大法を、中国最初の王朝といわれている伝説上の王朝・夏の開祖である禹が天帝から与えられたものであると云われています。その重要なものの中に五行があるわけです。

しかし、「洪範」篇自体の成立は戦国期に儒教の立場からまとめられたものであるといわれています。

 

さらに、この五行(木・火・土・金・水)という概念の前段階として、民衆が生活する中での5種類の必需品である「五材」というものから五行へと発展したものであるとする考えがあります。

 

《左伝・襄公二十八年(紀元前546年)》に、

天生五材、民並用之、廃一不可。

(天は五材を生じ、民はこれらを用いて、一つとして欠かすことはできない。)

とあります。五材とはなんでしょうか。

 

杜預《注》によれば、五材とは、

金、木、水、火、土也。

とあります。五行そのままの要素です。

 

伏勝の記した《尚書大傳・周傳・洪範》には、

水火者、百姓之所飲食也。金木者、百姓之所興作也。土者、萬物之所資生也。是為人用。

とあり、五行を民の生活必需品としての五材であると規定しています。

 

意訳すれば、

水と火は百姓(一般庶民のこと)が料理を作って飲食するのに必要なものであり、金と木は庶民が労働や建築で必要とする資材であり、土は万物が生じるのを助けるものであるから、これらは人々が生活するのに欠かせない基本物質である。

 

これらは、自然がもたらす最も基本的な資材であり、五材を様々に組み合わせ加工することで生活の多様な事が成り立つという意味で、元素としての意味合いが含まれています。ここから、世界を構成する、なくてはならない基本的な要素としての意味を持つようになり、五材という具体物(元素)から、それらがもつ性質を抽出し、五行という抽象的な概念へと発展したとも考えられています。

 

では、五行の「行」とは何でしょうか。

《白虎通義・五行》によると、

言行者、欲言為天行氣之義也。

とあります。

 

「行」の字は、大自然中の気の運動や運行方式について述べたいときに用いる、と書いています。

 

 

さらに、《春秋繁露》でよりはっきりと述べられています。

天地之氣、合ニ為一、分為陰陽、判為四時、列為五行

 

天地の気は合わせれば一つであるが、陰陽に分けて見てみると四季があり、四季に分けて見てみれば五行がある。つまり、五行も元々は天地を合わせた一つの気の運行方式であり、天地間の四季の運動変化を担うものであることがわかります。

 

まとめると、「行」の字は運行や運動を表し「五行」とは、五種類の気の運行方式であるということです。「行」の字は、「めぐる」という意味であると思ってよいかと思います。

 

 

2.五行の本質

五行とは、五種類の気の運行方式であるということでした(具体物としての五元素という意味も内包します)。

 

気は絶えず循環して動く一つのものですが、その運行の様態を五つの相に分けて分類し、それぞれの性質の違いを木・火・土・金・水で象徴したものが、五行です。以下で、順に説明していきます。

 

 

 

気の運動の仕方(流れ方)を気機(きき)といい、昇・降・出・入の四つがあります。これは、気が上に昇ったり、降りたり、内に入ったり、外にでたりする上下内外の運動を表しています。

 

当ブログ内で、これまで春夏秋冬という四季の養生をご紹介してきましたが、その中で四季の気の特徴は①春は発陳、②夏は蕃秀、③秋は収斂、④冬は閉蔵であるとご紹介しました。

 

それぞれ、

 

①陽気が芽生えて万物が伸びやかに育つ

②陽気が最大となり万物が開花する

③陽気が衰退し冷涼の陰気が伸びはじめる

④陰気が最大となり陽気は奥深く身を潜める

 

という陰陽の気の移り変わりに四つのステージ(四季)があることが分かります。

 

先程の気機(昇降出入)の話とリンクさせると、①と②のステージは昇と出。③と④のステージは降と入という方向への気の流れといえるでしょう。

 

つまり、

 

①春は内に閉じこもっていた陽気が陰寒の気をおしのけて地中から外へと現れ上昇・成長する季節

②夏は気が上へも外へも最大に広がり、万物が咲き誇り成熟する季節

③秋は陽気が衰退しはじめ、夏に養分と水分を蓄え結実した実の重みで垂れ下がり、登りきったところから降りていこうとする季節

④陰気が長じて、内に追いやられた陽気は種子の核に集約し、地中で冬を越す季節

 

という陰陽の気の消長と循環が季節の移り変わりで観察できるわけです。

 

この循環を生・長・収・蔵といい、

動植物においては生まれ、成長し、老いて、死ぬ。

1日の流れにおいては、朝、昼、夕、晩がある。

水の循環においては蒸発して昇り、雲から雨が降り海や川へ戻る。

事業や国においても、起業と建国、興り栄え、衰退し、次の世代へ。

 

というように、自然界万物の普遍のサイクルです。

 

こうした一連の事物の移り変わりを、気の動きとして捉え、生・長・収・蔵や昇・降・出・入の各段階を木・火・土・金・水という五元素(五材)の性質によって象徴し表したものが、五行です。

 

冒頭でご紹介した《尚書・洪範篇》に、水は潤下、火は炎上、木は曲直、金は従革、土は稼穡とありましたが、これらが五行のもつ性質です。

 

水行は潤下。老子の「上善水の如し、水はよく万物を利して争わず、衆人の恵む所に処る」という言葉どおり、万物を潤和し恵みを与え、その上で自分は最も低いところに落ち着こうとする性質。

 

火行は炎上。火は必ず高いところに上がろうとし、強い権力と富と高い能力、攻撃性を象徴する。物事を盛んに突き動かす熱量・動力という性質。

 

木行は曲直。樹木のように上へ横へと曲がったり伸びたりしながら外界へと広がり発展していく気の動き。好奇心旺盛な子供のよう。成長や昇発を司る。伸びやか(条達という)でありながら、周囲からの抑圧には抵抗して打ち勝とうとする剛の面を併せ持つ。

 

金行は従革。変革を意味し、加工すればそれに従い形を変え役に立つ。金属のように重く沈んで下降し(粛降)、芽生え栄えた陽気と生命力を刈り取る粛殺の能力がある。秋になれば葉を落とす作用も金の働きによるもので、切断したり遮断する性質があるため、例えば太陽の光を遮断する雲も金であり、外界と内界を境界する皮膚も金の性質といえる。純度が高く清涼(清潔)で、密で剛性がある(収斂)が液体のようにも変容できる。

 

土行は稼穡。種をまき、収穫すること。万物を育み次代へうまく引き継ぐ。すなわち、変化の土台となる。他の水・火・木・金という四行の気が移り変わる際、気の運動変化の舞台と調整期間となり、緩衝させ急激な変化とならないよう和する性質。生化や継承、受納を司る。

 

この五行の性質(イメージといっても良いでしょう)を、先程の①②③④の気の運行過程に当てはめてみると、

①「木」は伸び伸びと躍動する春の陽気の芽生え

②「火」は繁茂し栄華を誇る夏の陽気の極まり

③「金」は葉を落とし糖分を内に蓄え収斂してゆく秋の陰気の発生

④「水」は陽気を深く閉じ込める冬の陰気の極まり

をそれぞれ象徴します。

 

「土」は他の四行の中央に位置し、また各季節の間に入り込むことで、季節の移り変わりを円滑にします。各季節の前18日間を土用(土旺用事の略)というのはこのためです。土が旺気して事を用する期間という意味で、詳しく述べれば四立(立春立夏立秋立冬)の直前の18日間です。一般的には夏の土用が知られていますね。

 

また、もともと中国では夏の最も暑い期間の後のジメジメした雨季を長夏といい、一つの季節として扱って、これを「土」とする考えがあります。

 

木・火・土・金・水の五行の性質が明らかになれば、自然界のいろいろのものごとを五行に当て嵌め、表すことができるようになります。

そして、これは次回に述べますが、万物を五行で分類するだけに留まらず、お互いが影響しあい関係性をもつことにより、現実に広く応用できるところが素晴らしいところです。

 

 

3.五行と方角

五行と季節の関係は分かりました。

次に五行と方角の関係について述べたいと思います。

 

これも、陽気と陰気の運行(移り変わり)を考えれば、自ずと決まります。

 

太陽は東から登り、南中し、西に沈み、北へと隠れますから、

①陽気の芽生えである東方は「木」

②最も太陽光が集中して強くなる南方は「火」

③太陽が沈みだす西方は「金」

④太陽が隠れる陰気の多い北方は「水」

そして、方角の中央が「土」となります。

 

中国には「中華思想」というのがあり、

中国(とくに漢民族)が世界の中心であるとする考え方ですが、中華全土を舞台に五行が展開していることを示唆する面白い話があります。

 

まず、中国には、中心を横断するように流れる河、

黄河があります。豊富な土壌を含んだ河水はいつも黄濁しているのでこう呼ばれます。古代中国文化の発祥地であり、黄河中華民族のゆりかごの地でありました。ここを中国の中心として、五行で中央は「土」が司るので、土の色は黄河の色。黄色です。

 

黄色というのは、中国伝統文化において非常に尊重されてきました。黄色が五行の中央に位置することから、最も尊い最上の色として、天子の服の色でした。明・清の時代には、黄色は皇室の色であり、庶民は黄色の服を禁じられていたそうです。紫禁城の屋根瓦は黄色であり、建物についても黄色を使っていいのは皇族のみでした。

 

このように、黄色は古代より天上の色であるとされ、天は高次元の神々のことであり、皇帝が天から権力を授かって天下を治めることができたのです。

 

中心を土として、中国の東側には樹木が多く海からの風が吹く環境であったという話があり、東方は木であり、風と関係し、海と樹木の青色です。

 

南は中国南部の温かい気候から、暑熱と関係し、南方は火、炎上の赤色です。

 

また、西はゴビ砂漠(実際にはほぼ北にありますが)からの冷たい乾燥した空気がやってきて、ヒマラヤ山脈あたりから金銀などの金属がとれたことから西方は金であり、乾燥と関係し、砂漠の砂の白色です。

 

北には(おそらく)祁連山脈あたりの水源や水脈があり、寒冷の気候から、北方は水であり、山岳の黒色です。

 

以上は、信憑性はあまりないですが、五行の方位と色を覚えたり連想するには便利な話だと思います。

 

 

4.五色と時空

五行の木火土金水には、それぞれ青赤黄白黒の色が配当されています。

 

青赤黄白黒とはすなわち、青赤黄の三原色に、全吸収の黒(色の三原色=減算混合)と全反射の白(光の三原色=加算混合)という内実となっています。

 

中国最古の類語辞典《爾雅(じが)》に、

春為青陽、夏為朱明、秋為白藏、冬為玄英

とあり、

 

春は青

夏は赤

秋は白

冬は黒

 

季節を色で表現しているのです。

 

 

さらに、方位に関しては四神獣というのがあり、

 

東方は青龍

南方は朱雀

西方は白虎

北方は玄武

 

というのは比較的有名であるかと思います。

 

要するに、目にみえない時間と空間を可視的な色彩で表現し、五行によってつながりをもたせることによって、季節や方位にまつわる様々な事象を分析したり、呪物の配色などによりコントロールして扱うことを可能としたのです。

 

5.五行と文化

さて、五行の成り立ちと意味をご紹介してきましたが、日本の何気ない風習や文化の中にもその背景に五行思想が根付いています。

 

例えば、故・吉野裕子(著)『陰陽五行と日本の民俗』には、節分の豆まきの例が紹介されています。

 

一般的な意味での節分は立春の前日を指しますが、これから春になろうとする時期です。春は陽気の長じる季節であり木気が統率すると述べました。

 

豆まきは、冬の陰気を祓い春の陽気と木気をたすける儀式であるというのです。

 

豆は鬼を払うために投げつけます。

 

用いられる大豆は丸くて硬い穀類であり金気に属し、春の木気を剋す(力を抑えつけてしまう)ものです。春をめでたく迎えるには木気を害う金の気を抑えつける必要があり、豆を火で煎って金気を抑えた上で外に投げ捨てたり家の中に撒いたものは食べてしまうなどして始末することで金気を消すわけです。

 

また、

 

鬼は「隠」の字の音が訛ったもので、陰気の象徴であると述べています。

 

「鬼は外」と唱えながら豆を撒くことで陰気の鬼を退散させ、春の訪れをたすける迎春呪術であると記載されています。

 

小さい頃からやっていた豆撒きに、このような五行の意味が隠れていたのですね。

 

 

文化の中では、例えば茶道。

 

お茶を淹れるには、

水を用い(水)、

茶葉や柄杓や茶筅を用い(木)、

茶碗を用い(土)、

茶釜や茶器を用い(金)、

火を用い(火)、

五行のすべてが茶道具などに関係しているのが分かります。

 

 

その他の例でいえば、相撲。

 

相撲の吊屋根から垂れる青房・白房・赤房・黒房がそれぞれ東西南北の方位ごとの色に割り当てられ、中央に土俵があり、まさに五行が盛り込まれた空間です。

 

調べてみると、力士同士が力比べをする時に火の気が生じるので、土俵上に黒色の水引幕が垂らしてあり、水によって火を静める意味があるそうです。

 

このように、様々な文化の作法や道具の中にも五行思想が隠れています。何気ないものにも元々は意味があったことを知るのも面白いです。

 

6.まとめ

今回の内容をまとめてみましょう。

 

五行とは木・火・土・金・水(もく・か・ど・ごん・すい)のことであり、五元素の意味だけではなく、5種類の気の運動形式(状態)を象徴したものです。

 

この運動形式を季節や時間と方位、色に当てはめると、それぞれ以下のようになります。

 

木:季節は春、時間は朝、方位は東、色は青

火:季節は夏、時間は昼、方位は南、色は赤

土:季節は長夏または土用、方位は中央、色は黄

金:季節は秋、時間は夕、方位は西、色は白

水:季節は冬、時間は夜、方位は北、色は黒

 

というようになります。

 

次回は、五行についての基本的な内容をさらにご紹介していきます。

 

 

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