鍼灸治療に役立つ八卦の基礎知識①
こんにちは!!!
京都東山三条の
院長の長濱です。
当ブログをご覧いただき、ありがとうございます。
今回は鍼灸治療に役立てるための八卦の基礎という内容でお伝えできればと思います。
八卦といってもあまり馴染みのない方も多いのではないでしょうか?
八卦は占いだと思っているそこのあなた!
占いだけではないんですよ〜
でも、八卦は『易経』という中国最古の文献に記されたものであり、『易経』は卜占の書なので、占いであることは間違いありません。人生の選択を迫られたときに現状を把握し、道しるべとなる占いとして最たるものです。
占いはもちろんですが、『易経』の良いところはその哲学的な思想です。古代中国の文化や世界観の根底にはこの「易」の哲学思想があり、最古でありながら非常に優れた内容です。
特に、鍼灸や東洋医学などの養生の分野では『易経』の哲学的な部分が結構役にたちます。
今回は、『易経』の中の八卦に焦点をあてて、ご紹介していきます。
1.八卦とは何か
まず八卦の読み方です。どちらでもいいとは思うのですが、正しくは「はっけ」ではなく、「はっか」と読みます。
八卦は、これまでブログでご紹介してきたように、無極→太極→陰陽→四象の順に一元の気の状態を分けてみてきましたが、その延長として、老陽・少陰・少陽・老陰の四象をさらに陰陽に分割して、八つに分けたものが八卦となります。
易に太極あり。これ両儀を生ず。両儀は四象を生じ、四象は八卦を生ず
《易経・繋辞上伝》
陰陽の生成変化。「易」は固定したものの見方ではなく、自然・事物の時系列に則した変化の規律をあらわす哲学です。自然は不断の変化流転をしつづける反面、その根底に変化しない大本の規律が存在する、それを表現したのが「易」です。
考えてみれば、「易」の字は「日」と「月」から成ります。
《易経・繋辞上伝》に
一陰一陽、之を道と謂う
《易経・繋辞上伝》
とありますが、陰と陽の法則を探求しその変化の規則をみることで、宇宙の普遍的な法則に従って生きることができる、ということです。
四象は陰陽の気の大まかな区別や説明に留まるものであったのが、八卦になると宇宙の具体的な事物や人の認識物を表します。例えば後述する自然の事物(天地・水火・雷風・山沢)や方位(方角)、人物の性質などです。
さらに陰陽は2の累乗としてどこまででも細分化して広がりますが、《易経》にはこれらの基本となる八卦の上に八種類の八卦をさらに重ねて8×8の六十四卦(2の6乗)までを表現しています。
この大成卦と称される六十四卦といえども、基本となる八卦(小成卦といいます)が二つ重なって成り立つので、やはり基本の八卦をおさえておくことが大切です。そのため、今回は八卦の話にしぼって述べていきたいと思います。
上記の図をみてみてください。
なにやら記号が並んでいますね。
「ー」の記号と「- -」の記号が重なることで、八卦は表されます。
「ー」は陽爻(ようこう)といい陽を表す記号。
「- -」は陰爻(いんこう)といい陰を表す記号です。
一番下の爻(初爻)が基本となります。
一番下の爻が陽爻なら、その卦は陽卦に属し、陽から分岐したものとわかります。初爻が陰爻なら、陰卦だとわかります。図の「陰から派生する卦」「陽から派生する卦」を参考にみておいてください。八卦といえども陰陽にわけるとすればこのようになります。
以前のブログのおさらいになりますが、
四象は、
陽爻の上に陽爻を重ねて、陽中の陽で「老陽(太陽)」(老と太は同じで大きいという意味)
陽爻の上に陰爻を重ねて、陽中の陰で「少陰」
陰爻の上に陽爻を重ねて、陰中の陽で「少陽」
陰爻の上に陰爻を重ねて、陰中の陰で「老陰(太陰)」
という具合に表されます。
八卦の場合、これら四象それぞれの上にさらに陰爻・陽爻をのせて表します。
記号の三段重ねで表しています。
老陽の上に陽爻を重ねて、「乾」(けん)
老陽の上に陰爻を重ねて、「兌」(だ)
少陰の上に陽爻を重ねて、「離」(り)
少陰の上に陰爻を重ねて、「震」(しん)
少陽の上に陽爻を重ねて、「巽」(そん)
少陽の上に陰爻を重ねて、「坎」(かん)
老陰の上に陽爻を重ねて、「艮」(ごん)
老陰の上に陰爻を重ねて、「坤」(こん)
以上が、八卦の表し方と名称です。
「けん・だ・り・しん・そん・かん・ごん・こん!」と呪文のように唱えてればすぐに覚えられます。この順番で覚えてみてください。八卦の名称を覚えたら、記号も覚えておきましょう。
別に覚えたくもないわって方も多いかもしれません(^^;
特に自慢にもならないし、誰かに話したら怪しい人と思われるかもしれませんね。
でも、鍼灸治療には役に立ちます!笑
記号の覚え方は…
普通に覚えてしまうのがいいかもしれませんが、どうしても覚えにくいという方は、漢字に注目してみるといいかもしれません。
乾は「乞」の字から連想して、「三」という記号。
兌は上の「八」が別れているので、
- -
ー
ー
という記号。
というような具合に、漢字からイメージして覚えてしまうという荒業です(笑)
とくに、「離」と「坎」と「艮」がすこし無理がありますね。
これだと怒られそうなので、
さらにもう一つの覚え方を考えてみました。
VS(バーサス)関係で覚える方法。
乾は天なので、陽の極みだと分かりますよね。だから陽爻3つ。
坤は天に対する地なので、天の反対ですべて陰爻から成り立ちます。
震は雷なので、震え動く性質がありますよね。
これは冬から春に移り変わるフェーズ。まだ万物が地上の寒気に押し退けられ、地中にこもって顔をだそうとしない時に、ようやく地中の奥で揺れ動き、まさに芽吹こうとするエネルギーを発動しはじめる時期です。
ということがイメージできれば、一番奥深く(底)に陽爻があって、その上に地面である陰爻二つが乗り重なっていることが想像つきます。
「震」と「巽」はVS関係なので(風神雷神でもお馴染みですよね^^)、巽は震の真逆の並びになると覚えればいいのです。
次、「離」と「坎」。火と水ですね。
火が分かりやすいかもしれません。
ろうそくの火を思い浮かべてください。
ろうそくの火は周りが温度が高くて赤いですよね。
中心が温度が低くて青色です。
つまり、陰爻の上下を陽爻で挟んだような状態が連想されるでしょう。
だから、「離火」は陽爻の間に陰爻があります。「坎」はその逆と覚えればいいのです。
最後、「兌」と「艮」。「山沢通気」といって、山と川があれば気が通る、というのですね。有名な竜安寺の枯山水を見たことがありますか?
枯山水庭園は、まさに山と川を表現しているのですが、
竜安寺の庭園の入口に、大きく「通気」という字が書かれているので、ぜひ探してみてください(^^♪こんなところにも、八卦が関わっているのですね。
さて、話が逸れました。
山は底がガッチリしてなければ支えられませんよね。
だから下二つは陰爻。そして、山肌部分は木が生えて水分のやり取りやガス交換などをして動植物を育む陽の性質があります。
だから、「艮(山)」は、陰爻二つの上に、陽爻一つ乗った形です。
川はその逆と思えばいいわけです。
どうです?なかなかイメージしやすいかと思います。
暇な方は覚えてみてくださいね笑
2.八卦の性質と五行
八卦の段階となると、陰陽という分類から自然の具体物を表す意味合いが強くなると述べました。
八卦にはそれぞれ表すものがあります。それをご紹介していきます。
まず八卦と自然の事物との対応です。
乾=天
兌=沢
離=火
震=雷
巽=風
坎=水
艮=山
坤=地
天・沢・火・雷・風・水・山・地(てん・たく・か・らい・ふう・すい・さん・ち)と覚える方法もありますが、乾は天、坤は地…というように八卦と対応させて覚えたほうがいいと思います。
これを覚えておくことで、八卦の性質も理解しやすくなるだけでなく、六十四卦も覚えやすくなります。
ちなみに、沢は川のことです。他は問題ないと思います。
八卦の性質を、これら八つの自然物で象徴して考えていこうというもの。ちょうど五行を木・火・土・金・水で象徴した具合と似ていますね。
この八卦に、今までご紹介してきた五行を当てはめてみましょう。
①乾と兌=金
②離=火
③震と巽=木
④坎=水
⑤艮と坤=土
となります。なぜこのようになるかというのは、後ほどご紹介する「後天八卦」のところで少し触れます。
しかし、①乾と兌は天と沢で非常に澄み切った印象があり「金」。②離は火なのでそのまま「火」。③震と巽は雷と風で「木」。④坎はそのまま「水」。⑤艮と坤は山と地で「土」。
というように、なんとなくマッチしているのがわかりますね。
3.先天八卦と後天八卦
八卦が自然を表す例の一つに方位(方角)があります。
この方位に関しては、なぜか先天と後天という二つのバリエーションがあります。作ったとされる人物や成立年代が異なるためですが、この章ではこの先天八卦と後天八卦についてご紹介していきますね。
先天八卦は、伏羲がつくったとされ、伏羲八卦方位とも云われます。
実際には、先天八卦図の方は11 世紀の北宋の学者、邵雍(しょうよう)の著作《皇極経世書》が初出であるらしく、作者であろうと云われています。
下図をみてください。
ちなみに図の方角のみかたとして、南が上、北が下にあることに注意してください。太陽の黄道がある南を上にもってきているためです。普通の地図と方角の表し方が逆になるので、混乱しやすいです。
両者の役割として、
先天八卦は天道をあらわし、
後天八卦は地道をあらわします。
なんのこっちゃという感じですが、
後ほどその配置をみていくとなんとなく分かります。
先天八卦は自然の象から生まれ、
後天八卦は生化の理を源としています。
それぞれ解説していきましょう。
まずは先天八卦の説明から。
先天八卦図に示した矢印のとおり、上から乾・兌・離・震まで順番に左回りで並んでいきます。次に上に戻ってから巽・坎・艮・坤という順番で反対の右回りに並んでいきます。
この配置の理由は、『鍼灸治療のための易経入門』(小林詔司/著)にわかりやすい記述がありました。
古来、天道(つまり天体)は左旋するという原則があって、陽から生まれた卦の流れは震までを順として優位とし、乾・兌・離・震と左に配置し、巽から坤までの四卦は陰から生じたもので、天道がとらない順序なので逆とし、右旋するとしています。
ここで、天道は左旋するとありますので補足します。星の回る方向は北の空と南の空で違って見えますし、北半球と南半球でも逆となりますが、地球上のどこであっても自分が北極星の方向へ向いていれば、反時計まわり(左旋)になるわけです。
ここで、八卦が自然をかたちづくるさまを表しているのが(易経の儒教的解釈の付け加えになるのですが易経十翼の一つ説卦伝にある)
天地定位、山沢通気、雷風相薄、水火不相射、八卦相錯
《周易・易伝》
であり、
天地位を定め、山沢気を通じ、雷風相薄(あいせま)り、水火相射(いと)わず、八卦相錯(まじ)わる。
とあるように、
世界は天・地・山・沢・雷・風・水・火の働きにより成り立ち、
さらに
雷(震)は万物を動かし、風(巽)は万物を散らし、雨(坎)は万物を潤し、日(離)は万物をかわかし、艮は万物を止め、兌は万物を悦ばし、乾は万物を主であり、坤は万物を包蔵する。
という内容の記述があり、八卦の自然における役割と世界の成り立ちが伺えます。
これらの働きをふまえたうえで、
先天八卦は自然の姿そのものを表した図といえるでしょう。
第一には、天地を上下の軸に配置し、日が昇る明るい東に火、日が沈む暗い西に水を配置しています。五行のところで説明した中華思想に則り、西北に山、東南の黄河を沢とし、西南から吹く風を巽とし、雷の多い東北を震として配置し、中国の自然の方位を代表させました。
第二には、先天八卦の配置が陰陽の消長を記録した陰陽図のようになっているため、自然を模した配置であるといえます。
八卦の陰爻と陽爻の並びや数に注目すると、陽卦である震・離・兌・乾が南の乾に向かうにつれて陽気が長じて陰気が減り、陰卦である巽・坎・艮・坤は北の坤に向かうにつれて陰気が伸びて陽気が消えていくさまがわかると思います。
先天八卦は万物自然の陰陽の消長を表しているため、正反対の方角にある(対面する)卦どうしは陰爻と陽爻が完全に入れ替わる反転の関係にあることも理解できます。例えば、兌の卦象(陰爻と陽爻で表される卦の記号のこと)は、陰爻二つの上に陽爻一つです。対面する艮は陽爻二つの上に陰爻一つで表され、互いの卦が反転の関係にあることがわかります。
他方の後天八卦を説明していきます。
南に火である離が来て、北には水である坎が配されています。
先天八卦とは異なり天地が上下の軸とならず、火と水という地で起こる現象を軸にしています。
よくいわれるのは、先天八卦は「体」であり、後天八卦は「用」であると。
つまり先天八卦は自然の姿そのものの「体」を表し、後天八卦はそれを人々の生活の中で応用する、つまり実用性を重視した「用」であるというのです。
人の生活は土地の上で成り立つものなので、坤(地)と艮(山)という土の性質をもつものを、それぞれ陰から陽、陽から陰へと転ずるところに配置し(つまり艮は北東で陰から陽へ転ずるところ。坤は南西で陽から陰へ転ずるところ)変化の土台としています。
東は春。物事の震い起こる時と場所として震を配置し、西は秋の収穫の悦びとして兌を配置します。
物事が震い立ち動き始めたものを風によって散らし、火を起こすので震(雷)と離(火)の間の東南に巽(風)を配置します。
残りの乾(天)は剛であり、金気の重く沈む性質から陰気を沈めて北方の坎(水)を生む意味で北西に配置されます。
面白いことに、
後天八卦の配置は五行の並びが時計回りに、相生の関係となっていることが分かります。
震と巽は「木」
離は「火」
坤は「土」
兌と乾は「金」
坎は「水」
と、ここまでは相生(木→火→土→金→水)の並びとなっているのですが、そこから先の
坎(水)と艮(土)と震(木)
の関係に注目すると、
この部位だけ土剋水、木剋土という
相克の関係となっています。
そして、唯一相克の関係となってしまう、艮(うしとら)の方角、つまり北東の方角を「鬼門」と呼ぶのです。
艮(うしとら)とは、十二支の丑寅(うしとら)の方角のこと。鬼の姿は、牛のツノを生やして、虎柄のパンツを履いているイメージはここから来ていると云われています。
余談でしたが、日本の様々な風習もこのような易や陰陽五行思想を背景に成り立っているのですね。
後天八卦は先天八卦より実用的であると述べましたが、使おうと思えば先天八卦も後天八卦もどちらでも使えます。
ただ、先天八卦は体質などその人がもって生まれたものをみるときに応用し、後天八卦は実際の施術に応用することが多いです。
4.八卦の色と内臓
五行に色があるように、
八卦にもまたそれぞれ
別の色の配当があります。
乾:青空色、白色、赤色
兌:赤色
離:紫色
震:青色
巽:緑色
坎:白色
艮:黄色
坤:黒色
また、五行に臓腑の配当があるように、
八卦にも臓腑の配当があります。
乾:大腸
兌:肺
離:胆
震:心
巽:肝
坎:腎
艮:胃
坤:脾
※「離」は胆ではなく、心であるとする考え方もあります。その場合、「震」「巽」両方が肝であると考えます。
※納甲法など、上記以外の臓腑配当もあります
食養生のヒントとして、
それぞれの内臓にあてはまる体質や不調の人は、
対応する色の食べ物を食べるといいのです。
4.八卦の応用
八卦を鍼灸治療に応用する方法は多数ありますが、ここでは身体と八卦の対応をご紹介します。
基本的には「用」である「後天八卦」を身体各所にあてはめて用います。
前セクションでご紹介した、八卦の臓腑配当を照らし合わせて、問題のある臓腑がわかれば、図にある部位を種々の方法で刺激して用いることが可能です。
八卦を鍼灸に応用する方法は、実はたくさんあります。中には複雑なものもあるのですが、順次ご紹介していきますね!
5.八卦の食べ物
八卦の色を参考に、
体質ごとに食べたらいい物があります。
乾の人は、大腸が弱い人。
頭部に問題がある人
赤や白の食べ物がいいです。
ex.トマトジュース、白菜、龍眼(漢方)etc.
兌の人は、肺が弱い人。
赤の食べ物がいいです。
ex.トマトジュース、赤パプリカ、イチゴetc.
離の人は、胆が弱い人。
身体の正中ラインに問題のある人。
紫の食べ物がいいです。
ex.紫キャベツ、ナス、紫芋、ワインetc.
震の人は、心臓が弱い人。
発芽🌱の食べ物、もやしやかいわれなど。
あとは青色の食べ物がいいです。
ex.チンゲンサイ、ほうれん草、にらetc.
巽の人は、肝臓の弱い人。
緑色の食べ物がいいです。
坎の人は、腎の弱い人。
豆類と白い食べ物がいいです。
ex.ナガイモ、白菜、太刀魚、豆腐etc.
艮の人は、胃が弱い人。
黄色の食べ物がいいです。
ex.カボチャ、きゅうり、苦瓜、みかんetc.
坤の人は、脾が弱い人。
黒色の食べ物がいいです。
ex.キノコ、キクラゲ、タコ、イカ、蓮根etc.
実際はまだまだありますが、
主な食材をご紹介いたしました。以上を参考にご自身の体調と合わせながら食してみるとよいと思います。
6.さいごに
いかがでしたでしょうか?
易の八卦自体は奥の深いものですが、応用するとなると結構シンプルに応用できるものも多いです。
とくに八卦は内臓や方角と相応していますので、そのあたりを治療目的とする内臓に合わせて、鍼の刺す方向や場所などで応用することでいくらでも幅広く活用可能となります。
手や、頭や、目や、足や、お臍や、はたまた全身の中にも八卦があり、それぞれを臨床で活用しておられる先生もいらっしゃいます。
私自身も、臨床の中で八卦を応用しますが、見方さえ合っていればその場で効果を発揮します。
太極拳や中国の伝統武術の中にもその背景に八卦が潜んでいます。
体操や食事など、養生法としても活用できますので、今後もご紹介していければと思います。
鍼灸・接骨院 白澤堂HAKUTAKUDOU – 京都東山三条「痛み」で悩む方のための専門院