五行の相生と相克
みなさま、こんにちは!!!
京都東山三条の
院長の長濱です。
当ブログをご覧いただき、ありがとうございます。
前回は五行のそもそもの成り立ちと意味についてご紹介しました。
今回は五行間の関係性とその応用について記述します。
五行とは、木・火・土・金・水のことでした。
これら五要素は独立して循環しているわけではなく、相互に影響を及ぼしあってパワーバランスを保とうとしています。
五行間の主な相互作用としては、
助ける関係である「相生」と、
制約・抑制する関係である「相克」があります。
順にご紹介していきましょう。
1.相生
「相生(そうせい・そうじょう)」とは、相生じる働き。
木は火を生じる(木生火:もくしょうか)
火は土を生じる(火生土:かしょうど)
土は金を生じる(土生金:どしょうきん)
金は水を生じる(金生水:きんしょうすい)
水生木を生じる(水生木:すいしょうもく)
木→火→土→金→水(もっかどごんすい)の順で生じて循環します。
(もともとの五行の各行が出来上がる順番は、これとは異なります。生数と成数の説明の際にご紹介いたします。)
「生じる」というのは、助けるという意味でもあり、例えば、木の力を借りて火の力が強くなります。
生じる=生むということで、己(おのれ)を生む方を「母」、己が生む方を「子」と言ったりします。
ですので、例えば火の視点から言えば、木は火(己おのれ)を生みますので、火からみて木は「母」といえます。また、火(己)からみて土は「子」ということになり、議論する視点が大事になってきます。
五行が順に生じていくイメージとしては、上記の図をみていただくと理解しやすいのですが、
①木と木を摩擦することで火が生まれる(木生火)
②物を燃やすと灰となり、土が生まれる(火生土)
③土中から鉱物や金属が採取できる(土生金)
④金属の表面に空気中の水分が冷やされ水滴がつく、または鉱脈の近くに水脈があったりする(金生水)
⑤水をやると木が育つ(水生木)
相手をどんどん助けていくので、相生はプラスの働きともいえるでしょう。
2.相克
相克(相剋そうこく;相勝そうしょう)とは抑制する働き。
木は土を剋する(木剋土:もくこくど)
土は水を剋する(土剋水:どこくすい)
水は火を剋する(水剋火:すいこくか)
火は金を剋する(火剋金:かこくきん)
金は木を剋する(金剋木:きんこくもく)
木・土・水・火・金の順で抑制し循環します。
抑制とは、相手のパワーに打ち勝って弱めるということで、例えば木は土のエネルギーを弱めます。
五行が順に剋してゆく様は、上の図をみていただきながら、
①木が土から栄養分を吸収する(木剋土)
②土は水の流れを塞き止める(土剋水)
③水は火を消す(水剋火)
④火は硬い金属を溶かす(火剋金)
⑤金属は木を伐採する(金剋木)
とイメージすればわかりやすいです。
相剋は相手を弱める作用なので、どちらかといえばマイナスの働きといえます。
相生と相剋は自然が絶えず循環しながら動的なバランスを保つためのシステムです。相生はプラスの働きであり相剋はマイナスの働きであると表現しました。
相生だけでは互いを際限なく強くしてしまい破綻してしまいます。必ずマイナスの力で相殺しなければ、自然界のパワーバランスを保つことはできないでしょう。
互いをうまく助けあい、なだめながら良いところに収まろうとする自然がもつ自発的秩序形成(自己組織化)の原理が五行思想に反映されています。
そして、相生と相克もキッパリと別ものとして分かれるのではなく、陰と陽のように互いを抱き合って一つの根をもつものです。
相克の中に相生の要素があり、
相生の中に相克の要素があります。
どういうことかというと、土は木の根により支えられて土砂崩れを起こさず形を保つことができ、水は土により河川の流路を作ってもらい流れやすくなり、火は水によって抑えられるために燃やし尽くさずに済み、鉱物はマグマのような火に溶かされることによって移動・循環することができ、木は秋の金気によって葉を落としエネルギーを蓄えて冬を越せるというように、相克の中に「生」の働きがあるといえます。
木は火を生じ続ければ衰え、火も灰を生みつづければやがては燃え尽きる。このように、相生の中にも相克の一面がみてとれます。
なかなか奥が深いと思いませんか?
3.相乗と相侮
相生と相克をもって五行のパワーバランスが保たれるのですが、こうした秩序が崩壊する異常な場合において、相乗(そうじょう)と相侮(そうぶ)という状況がみられます。
相乗とは、相手に乗じる。凌駕するということです。五行中の一行がなんらかの原因で強くなりすぎたり(太過といいます)、または弱くなりすぎたり(不及といいます)した場合に、制約する力が強く働き過ぎて相手を余計に弱らせてしまい全体のバランスが崩れる関係性をいいます。
例えば、木が異常に強くなりすぎた場合には養分を吸い上げすぎて土がますます弱ってしまいますし、土がもともと枯れている場合には木がますます養分を欲して一気に吸い上げてしまいます。これを木乗土と表現します。
相侮とは、相手から侮られる。相手が油断した結果、本来勝てない相手に勝ってしまう関係をいいます。
例えば、水は本来火を消すものでありますが、火の手がまわって大火災になってしまうと水の力でも消火できなくなりますし、逆に水が少なすぎても火を消すことは叶いません。これを火侮水と表現します。
5.補と瀉(相生相克の応用)
五行のバランスに異常をきたした際、人為的にそのバランスを取り戻す施策として、補と瀉という方法を採ります。
実際には虚と実という概念があってはじめて補と瀉が出てくるのですが、後にご説明することとして、ここでは割愛します。
例えば、先述の相乗・相侮の異常な状況に陥り、五行のパワーバランスが乱れてしまった場合に、極度に弱ってしまったエネルギーを補ってバランスを取り戻したいとします。
その場合、「母が子を生じる」という五行の相生の関係を利用して、弱ってしまった子のパワーを強化するという方法があります。
母の栄養を補えば、子への栄養も十分にいきわたる。もしくは、母の財産が潤えば子もすくすく育つと考えればよいでしょう。子供のパワーを直接補うよりは、まず土台となる母のエネルギーを補って子育ての余裕を与えることによって子が肥えるという相生の考え方の、その場しのぎではない深い意味があると思います。
例えば、水を補えば木はすくすく育つというような具合に。
斯様にして、弱ってしまった木を助けたい場合には、木そのものを補うよりは水を補うことで木そのものの成長発育に大きな影響をもたらすということです。
ここに、世界の要素が別個ではなく互いに関わりあって均衡を保っているという真理が反映されているのだと思います。
根本の原因は別の箇所にある場合が多いということも示唆しているわけですね。
先程は「補:ほ(補う)」の説明でした。
瀉(しゃ)というのは「水などが勢いよく流れる」の意で、有り余ったエネルギーを捨て去るの意味です。
これも五行のパワーバランスのうち、強くなりすぎた一行に対して瀉すことにより、その有り余ったパワーを取り除いたり、他の部位へ流したり(他の部位へエネルギーを移す場合は「冩」と区別している流派もあります」)して、バランスを取り戻す技法です。
瀉法の場合も、強すぎる(大過)一行そのもののエネルギーを捨て去るよりは、その子供のエネルギーを奪ってしまうほうが効果が大きいのです。
子が飢えれば母は無理をしてでも与えようとする母性本能を利用した汚い手であるといえばそうかもしれませんが、汚い手ほど効果的面ということです。
例えば、水が多すぎた時に、その子である木のエネルギーを奪って成長を止めることで、母である水は自分のエネルギーを木に与えようとするため、結果的に水を弱らせ均衡を取り戻すことができます。
もちろん、柔軟に考えて、
木が成長しすぎてしまった場合に、その母である水を断つことで木の成長を止めてしまうという手もあります。しかし、母である水を瀉すことにより子である木のエネルギーを弱らせることも可能ではありますが、その場合には水を弱わらせることにより火を剋することができなくなり、火が強くなって金が弱くなり、金が木を剋せなくなって木が結果的に強くなるという五行の流れ的にはあまり効果的ではないわけです。
過剰な木を弱らせたい場合には、その子である火のエネルギーを瀉せば、今度は金気が火の抑制から解放されて木を剋してくれるので、正常の五行バランスに戻ります。
まとめますと、
①弱った行を補いたい場合は
その母を補うことで子が強くなる。
例えば、子である木を補いたければ、その母である水を補う。
②余りある行を瀉したい場合は
その子を瀉すことで母が弱くなる。
例えば、母である水の有余を取り去りたければ、その子である木を瀉すことで、水の大過を抑えられる。
この補と瀉という二つの方策をもって、五行の乱れた均衡を取り戻すのです。
実際に補と瀉をどのようにするのかということに関しては、鍼灸であれば手技、漢方であれば方剤を使い分けることによってコントロールします。
そのためにはまず、五行のパワーバランスの乱れを正確に知る必要がありますし、陰陽の偏りも知る必要があります。
そのために、中医学にはそれらのバランスの乱れを知るための複数の診察法がありますので、追々具体的な方法もご紹介していくつもりです。
以上、
五行の相生・相克
五行の相乗・相侮(五行バランスの乱れ)
と、
その応用(補と瀉)
についてご紹介させていただきました。